ハンケル行列
緊急事態宣言が発令し外出自粛ムードのなか、皆さまいかがお過ごしでしょうか?当然僕は自堕落な生活をしています。(大学始まらな過ぎて、春休みが無限ループする世界線に飛ばされたのかと疑うレベル)
とまあ、このようにやることがなく暇なので、今日はハンケル行列というものを扱っていきたいと思います。長くなるかもしれませんがお付き合いください。
[目次]
- ハンケル行列とは
- ハンケル行列の特殊な形
- ハンケル行列式の重要な性質
【1. ハンケル行列とは】
ハンケル行列(Hankel matrix)とは正方行列の一種です。最も特徴的なのは、i行j列の成分が
a_(k+i+j-2) (kは任意の非負整数)
と表される点でしょう。つまり、i+jが一定となる場合(これは行列の対角線上に他ならない)に、成分が同じになるのです。ここで具体例を見てみましょう。
(Ex)
このように、右上から左下への対角線上の成分はすべて同じとなる行列、それこそがハンケル行列式なのです。名前だけ聞くと少し難しそうでしたが、その実態は上図のような、むしろ簡単な形をした行列だったというわけですね。
【2. ハンケル行列の特殊な形】
実は、上図の行列はハンケル行列であるとともに、別の名前も持っています。それはヒルベルト行列(Hilbert matrix)という二つ名です。このヒルベルト行列というのは、ある条件を満たしているハンケル行列のことなのですが、この「ある条件」とは一体何でしょうか?上図のヒルベルト行列の例から、その条件を推測してみましょう!
(ポケモンだいすきクラブ 公式ホームページより)
あしかポケモン、アシマリの可愛さに癒されたところで答え合わせです。(すぐに答えを見られたくなかっただけ)
正解は、行列のi行j列の成分が
a_(i,j) = 1/(i+j-1)
で表される、でした。このヒルベルト行列というのはいろいろな性質を持つそうなのですが、むつかしそうなので今回は割愛します。(今後やるとは言ってない)
【3. ハンケル行列の重要な性質】
それではようやく本題に入ります。ここからが今回やりたかったテーマです。
[Problem]
i行j列にa_(k+i+j-2)を並べて作ったn次ハンケル行列の行列式をH_(k,n)で表すことにする。(k,nともに正の整数)このとき、次の漸化式
H_(k+1,n-1)・H_(k-1,n+1) = H_(k+1,n)・H_(k-1,n)-{H_(k,n)}^2
が成り立つことを示せ。
これを証明するのが今回の目標です。ここで、一つのツールを使います。それは次の定理で、この定理は余因子展開を整理して得られるものです。
[Theorem]
行列Xを1つの小行列A、2つのベクトルb,c(bは縦ベクトル、cは横ベクトル)およびdにブロック分割できるとき、Xの行列式detXは
detX = det[ A b ] = d・detA-c・A'・b
c d
と表せる。ただし、A'はAの余因子行列である。
(都合上、行列をうまく表せなかったのでいびつな形になっていますが、行列Xは4つの部分にブロック分割されています。)
このTheoremを、H_(k+1,n-1)を与える行列HをAとみなしてH_(k-1,n+1)に2回適用します。途中過程は煩雑なので省略しますが、jacobi恒等式を使って
H_(k+1,n-1)・H_(k-1,n+1)=det[H_(k+1,n-1)×[ a_(k-1) a_(k+n-1) ]-CA'B]
a_(k+n-1) a_(k+2n-1)
となります。これはすなわち
det[ H_(k-1,n) H_(k,n) ]
H_(k,n) H_(k+1,n)
=H_(k-1,n)H_(k+1,n)-H_(k,n)
となり、証明ができたことになります。
このようにハンケル行列は、行列としては単純なのですが、知れば知るほど奥が深いものになっています。
この記事が皆さんの学習の一助となれば幸いです。